【きょうだい児という言葉をご存知ですか?】

障がいを抱える姉妹を持つ著者が綴った『#わたしのクエスト』

「世界は分けられている」

日本で初の「きょうだいの日」が今春4月10日に制定された。耳慣れない言葉に戸惑う方も多いだろう。
「きょうだい(児)」という呼称は、障がいを抱える兄弟姉妹がいる方を指している。米国では「Siblings Day(きょうだいの日)」として既に浸透し、きょうだい児のケアについての考えが深まっているのが現状だ。
それが、この度やっと日本でも日本記念協会によって「きょうだいの日」として登録されたということで、関係者達による発信が増えている。

【読売新聞】「病児らのきょうだい 支援を…NPO「しぶたね」主催 米のマイヤーさん講演」4月10日「きょうだいの日」日本記念日協会に登録

当事者にしか分からないという言葉は当然にある。この「きょうだい」という言葉もまた同じだ。自身にそういった経験が無ければ、高齢者の介護のことですら対岸の火事。同じ地続きの土地の上の筈でも、世界は境界線だらけで、知りえないことが多い。

今回ご紹介する「#わたしのクエスト」の筆者 ゆたかあすかさんは、その分けられた世界の狭間でモヤモヤを感じてしまった一人と言える。温かい親のもとで、次女として姉と妹と楽しく暮らしていた。でも、大人になるうちにどこか違和感を感じ始めてしまう。姉と妹が障がいを抱えていることを知り、自分はいつの間にか、他所とは異なる世界に住んでいたと社会に教えられるようになる。

©umi.doodle「#わたしのクエスト」

「二作目を書くきっかけ」

高校を卒業する時、母は「自分のやりたいことをやりなさい」と穏やかに背中を押し、彼女は夢や目標に向かって家を出ることとなった。なんでもない普通の話の筈なのに、姉と妹を親に任せきりになってしまったことにどこか引っ掛かるものを感じる。結婚を決め、更に将来に向かって進もうとした時に、「本当にこれでいいのだろうか?」と溜まった違和感が破裂してしまった。

彼女は、自身の経験が誰かの悩みの解消のきっかけとなればと、電子書籍「#半透明のわたし」を書くに至った。反響は大きかった。しかし、それでも独りよがりである自身の呟きに疑問を抱かざる得なかった。葛藤は消えなかった。

©umi.doodle「#わたしのクエスト」

それから、半年以上に渡る取材を開始した。同じ境遇の友人、障がいを抱える子どもの親、障がい者施設で働く人。
本ではとても紹介しきれないほどに、本を読み、人に会い、自分自身の心の置き所を探してみた。
その記録が二冊目の著書となる『#わたしのクエスト』となった。

#わたしのクエスト (チャレンジ文庫/ソラノイエ) Kindle 価格:¥334/Kindle Unlimited:¥0Amazon

「向き合えていない」

筆者である彼女は、本の中で自身がまだこの状況に向き合えてないことを伝えている。最後に姉や妹に会ったのはいつかも朧気であり、全て親任せにしているという本音も取材の中で明かしている。障がい者家族のことは当事者にしか分からない。愛情と現実の差というのがあることもまた一つの難題であると思う。

読者から共感や反対の声が上がることも覚悟した上で、彼女は発信をすることを決意した。それらすべてが論議の表題となれば、彼女が探したモヤモヤの答えも出てくるのではないかという希望になっているからだ。「きょうだい児ではなく、次女に戻りたい」心の叫びが、丁寧に描かれた本と言える。

本書は、分け隔てられた世界の狭間で揺れ動いた彼女の冒険の記録でありながら、同じく心の置き所に悩む方へ向けられた応援の本でもある。障がいを抱えた方、その家族、そしてその周囲、新しい時代に向かう今、私たちにはまだ家に持ち帰らねばならない宿題があることを、本書から知り得て欲しい。/記事:ソラノイエ編集

#半透明のわたし

子どもの頃から、抱えてきた「言葉にならない想い」

「きょうだい児」という言葉をご存知でしょうか?朗読演出やライターとして活動する「ゆたかあすか」に自身の人生で感じてきたこのことについて「半透明のわたし」と題して筆を執っていただきました。

子どもの頃から、言葉にならない想いを抱えていました。
「きょうだい児」という自分の境遇は、誰かのせいではないし、“可哀想”と他人が決められるものでもないし、同じ立場の理解者が多いわけでもない。障害を抱える兄弟姉妹こそがサポートを必要としており、辛さそのものを分かち合えない自分は、献身的に支えていく役割であるということを、自然に胸の内に刻んでいく。家族へ心からの愛情を持っている方々ならば、そのようなことは苦ではないのだと思います。しかし、私はそれだけではいられませんでした。自分の心も誰かに見てほしい、理解して欲しいという欲求が、年月を重ねれば重ねるほどに強くなっていったのです。

子どもの頃は、語彙も弱くただ言葉に出来なかった。
目の前の現実が当たり前の世界だった。大人になったら、自分の弱い部分をさらけだすことを恐れて、何も言えなくなっていった。「良い子」「空気を読む子」「我慢強い子」。きょうだい児の特徴として挙げられるこれらの性質は、本当に私自身なのだろうか?そんな疑問が、今回の書籍の根底にある心です。

そしてこの悩みは私だけの問題ではないのだということにも目線が変わっていきます。両親の想い、友人からの励まし、そして同じ境遇の子ども達、大人達・・・私が心にしまってきたこの思いも、社会に向ける意味が、意義があるのではないかと、一縷の望みをかけて筆を執りました。

他者を知る=社会を生きていくことのヒントになれば
社会を生きていくには、様々な側面に触れていくことになります。そして、一昔前に比べてその境界線は徐々に薄くなってきているように感じます。障がい者を家族にもつ私のような人など、マイノリティな立場の人々とのコミュニケーションも増えていくことでしょう。
相手の事情を明け透けと聞けないことは事実であり、配慮になります。でもその距離を冷たいものにして欲しくは無い。この本が、他者を知る=社会を生きていくことのヒントになれば幸いです。

当事者の私よりも読者の皆様が感じるのかもしれない
両親の心だけは未だ計り知れないことです。本書の中に両親からもらった言葉が沢山出てきますが、果たしてどんな思いで出てきた言葉なのか、自分の解釈は正しいのか、書きながらも最後まで悩ましかった部分です。生まれた時から障がいを抱える家族がいる自分よりも、突如自分の子どもが障害を抱えて生まれてきた両親の方が、すさまじい葛藤を抱えていたのではないかと思うこともあります。
ですが、私は私の視点から「両親」という存在を描くことで、読者の皆様への「とあるきょうだい児を持つ親」の心境を想像する余白が出来るのではないかと思い、迷わぬよう書き進めました。もしかしたら当事者の私よりも読者の皆様のほうが、両親を心を垣間見ることができるかもしれません。

ゆたかあすか
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書籍
#半透明のわたし #わたしのクエスト の2作が読めます。
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ゆたかあすか

ASUKA YUTAKA

朗読演出家、ライター

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朗読演出家、ライター。群馬県高崎市出身。栃木県宇都宮市在住。高校卒業と同時に、同市にある芸能系専門学校へ入学。卒業後はFM栃木RADIOBERRYにて3年間リポーターとして活動。平行して、ラジオCMコピー作成や、企業PRの為の演劇興行の制作(演出、脚本、出演)、企業紹介動画のナレーション等を担当。2018年6月に出版された朗読絵本「skybutterfly~殻の向こう~」にて朗読演出を担う。

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